盛岡地方裁判所 昭和49年(ワ)109号 判決 1976年1月26日
原告
佐藤徳次郎
ほか一名
被告
株式会社渡嘉商店
主文
一 被告は原告佐藤徳次郎に対し金四、五三八、〇六三円、原告佐藤サヨコに対し金六六五、九四七円および右各金員に対する昭和四九年五月一一日以降各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らのその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを六分し、その一を原告らの負担とし、その五を被告の負担とする。
四 この判決は原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。
ただし、被告が原告佐藤徳次郎につき金四、五三八、〇六三円、原告佐藤サヨコにつき金六六五、九四七円をそれぞれ担保に供するときは、右仮執行を免れることができる。
事実
第一当事者の求める裁判
一 原告
1 被告は原告佐藤徳次郎に対し、金六、一一〇、五四三円、原告佐藤サヨコに対し、金八七一、六七二円および右各金員に対する本件訴状送達の翌日以降完済に至るまでそれぞれ年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言。
二 被告
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
3 (予備的申立)
担保供与を条件とする仮執行免脱の宣言。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 (事故の発生)
訴外工藤光男は、被告の被用者として昭和四八年八月三一日被告保有の小型貨物自動車(岩四ほ七五八六)を運転し、国道四号線を花巻方面から水沢方面に向けて南進中、同日午前九時四五分頃胆沢郡金ケ崎町大字西根字荒巻三の一付近道路上において、先行する自動車の進行状況を確認しないまま加速して自車直前の先行車を追越し、同車と原告佐藤徳次郎運転の小型三輪貨物自動車との間に割り込みを敢行し、折から停止していた原告佐藤徳次郎の右車に自車を追突せしめ、その衝撃で原告佐藤徳次郎に対し鞭打症、同人運転の車に同乗していた原告佐藤サヨコに対し鞭打症、左胸部、上肢打撲症の各傷害を負わせた。
2 (帰責事由)
右事故は、被告が右小型貨物自動車を保有し、これを運行の用に供し、その供用の際惹起されたものであるから、被告は、自賠法三条に基づき原告らが蒙つた損害につき賠償すべき義務を負う。
3 (損害)
(一) 原告佐藤徳次郎分(金六、一一〇、五四三円)
(1) 治療費(金五一八、五四三円)
(イ) ときわ木病院金七、六九〇円
昭和四八年八月三一日から同年九月一日まで通院
(ロ) 細井外科医院
入院治療費等(昭和四八年九月三日から同年一二月一三日まで)金三六三、七七〇円
通院治療費(昭和四八年一二月一四日から昭和四九年四月九日まで通院)金一三〇、〇八三円
(ハ) マツサージ代金一七、〇〇〇円
(2) 入院雑費金三〇、六〇〇円
細井外科医院に前記のとおり一〇二日間入院し、その間に要した入院雑費のうち一日金三〇〇円の割合で計算した金三〇、六〇〇円
(3) 休業損害(金二、七七八、二〇〇円)
(イ) 原告らは夫婦共稼ぎで塗装業を営み、富士塗装看板工業こと松田隆至の下請をして、昭和四八年六月から同年八月末までに材料現物支給で合計金四八五、五〇〇円の報酬の支払を受け、また、独自に他から塗装工事の注文を受けて同年六月から同年八月末まで合計金一、二四八、二〇〇円の工事をして、うち材料代三分の一を除いた金八三二、〇〇〇円の収入を得た。
(ロ) 右の収入の一日平均値は金四八五、五〇〇円に金八三二、一〇〇円を加えた金一、三一七、六〇〇円を六月から八月までの暦日数九二日で除した金一四、三二一円である。
(ハ) 原告佐藤徳次郎は、本件事故発生の昭和四八年八月三一日から昭和四九年三月二一日まで一九四日間休業せざるを得なかつたので(原告佐藤サヨコはその後も引続き休業している)、その間原告佐藤サヨコと共に働けば金一四、三二一円に一九四を乗じた金二、七七八、二〇〇円の収入を得ることができたはずであり、原告らは休業によつて同額の損害を蒙つた。
(4) 原告佐藤サヨコの就労不能による損害(金二、二九三、二〇〇円)
原告佐藤サヨコは、後記の後遺障害のため今後塗装作業に就労することは不可能であり、原告佐藤徳次郎は右塗装業の経営を維持するために原告佐藤サヨコに代る作業員一名を雇うことを余儀なくされた。
原告佐藤サヨコは大正一四年一〇月二一日生れで就労可能年数は一五年ではあるが、女性、主婦でもあるところから本件事故がなければ少くとも今後三年間は就労することができたものといえる。
原告佐藤徳次郎は、原告佐藤サヨコの代替労働に対する対価として一日金三、五〇〇円を支払つているところから、同原告の就労不能による原告佐藤徳次郎の損失は金二、二九三、二〇〇円となる。
3,500(円)×20(日)×12×2.73=2,293,200円
(ただし、一ケ月の労働日数を二〇日とし、ホフマン式により三年間の中間利息を控除した)
(5) 慰藉料(金六〇〇、〇〇〇円)
原告佐藤徳次郎は、本件事故により入院三・五ケ月間、治療期間約六・五ケ月を要し、その間自家営業ができず、収入を絶たれて経済的にも不安が多かつたうえ、今なお外傷性頸部症候群に悩まされている。その精神的苦痛に対する遺慰料は金六〇〇、〇〇〇円を下らない。
(6) 弁護士費用(金六〇〇、〇〇〇円)
被告は本件事故による損害賠償につき全く誠意を示さず、原告らは訴提起を余儀なくされ、その訴訟遂行のため弁護士を委任したが、その手数料、報酬は金六〇〇、〇〇〇円を相当とする。
(7) 損害の填補
以上のとおり原告佐藤徳次郎の損害は合計金六、八二〇、五四三円となるが、同人は自賠責保険金五〇〇、〇〇〇円を受領し、また、被告から金二一〇、〇〇〇円の内入弁済を受けているので、この合計金七一〇、〇〇〇円を控除すると、残額金六、一一〇、五四三円となる。
(二) 原告佐藤サヨコ分(金八七一、六七二円)
(1) 治療費(金五二六、〇七二円)
(イ) ときわ木病院金八、四〇〇円
昭和四八年八月三一日から同年九月一日まで通院
(ロ) 細井外科医院
入院治療費等(昭和四八年九月三日から同年一二月一三日まで)金三七三、一四五円。
通院治療費(昭和四八年一二月四日から昭和四九年四月二四日まで)金一四四、五二七円。
(2) 入院雑費(金三〇、六〇〇円)
昭和四八年九月三日から同年一二月一三日まで一〇二日間の入院期間に要した諸経費のうち一日金三〇〇円の割合で計算した金三〇、六〇〇円。
(3) 慰藉料(金一、〇〇〇、〇〇〇円)
原告佐藤サヨコは現在なお頸部、左後頭部の疼痛、めまい、左肩および背部が重苦しい後遺症状を呈しているが、治療してもこれ以上の治癒を期待することができない。また、勤労意欲、記憶力も極度に減退した。これらによる精神的苦痛に対する遺慰料は金一、〇〇〇、〇〇〇円を下らない。
(4) 損害の填補
以上のとおり原告佐藤サヨコの損害は合計金一、五五六、六七二円となるが、同人は自賠責保険金五〇〇、〇〇〇円および後遺障害分として同保険金一八五、〇〇〇円合計金六八五、〇〇〇円を受領したので、これを控除すると、残額金八七一、六七二円となる。
4 (結論)
よつて、原告らは被告に対し請求の趣旨のとおり本件事故による損害賠償金およびこれに対する本件訴状送達の翌日以降完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因第1項の事実中、同項記載の日時、場所において本件事故が発生したこと、訴外工藤光男が被告の被用者であること、原告らが本件事故により同項記載のとおりの傷害を負つたことは認めるが、本件事故の態様については否認する。
すなわち、前記被告の自動車(以下「被告車」という)は、本件事故現場付近を時速五〇キロメートル位で花巻方面から水沢方面に向つて進行していたが、本件事故現場の約三〇〇メートル手前の地点において先行の大型貨物自動車(岩手県遠野市新穀町六番二二号訴外有限会社遠野運輸(以下「訴外会社」という)所有、運転手佐々木多喜男)を追越し、結局原告佐藤徳次郎運転の自動車(以下「原告車」という)、被告車、訴外会社所有の自動車の順で本件事故現場にさしかかつた。ところが右事故現場手前の三叉路付近道路の左端に普通貨物自動車が駐車していたため、原告車はその普通貨物自動車の右側を迂回して行つたので、被告車運転の工藤光男は原告車および右普通貨物自動車の前方の状態を注視することができなかつたが、工藤光男は前方の安全を十分に注意して進行すべき義務を怠り、前方が安全なものと見込運転した過失により、右普通貨物自動車の右側を通過中前方に三、四台の自動車が停車しており、その最後尾の原告車との間隔が僅か一五メートル位であることを発見し、即時急制動し、右転把して対向車線にのがれようとしたが及ばず、自車前部左側を原告車後部右側に衝突させたのであるが、その衝撃は小さかつた。
しかるに、被告車に追従していた訟外会社の自動車運転の前記佐々木多喜男も亦工藤光男と同様の過失により被告車に激突し、かつ、被告車をして原告車に激突せしめた。
従つて、原告ら主張の傷害およびこれによる損害は、前記工藤光男の過失による追突事故とは相当因果関係がない。
2 請求原因第2項の事実中、被告が被告車を保有してこれを運行の用に供していたことは認める。
3 請求原因第3項(一)(1)の事実中、原告佐藤徳次郎が同項(イ)記載のとおり通院し、(ロ)記載の病院に昭和四八年九月三日から同年一一月三〇日まで入院したことは認めるが、その余の入通院の経緯は不知。治療費は不知。
同項(一)、(2)、(3)の事実は不知。
同項(一)(4)の事実中、原告佐藤サヨコが同項記載のとおりの後遺障害を負つたことは認めるが、その余の事実は不知。
同項(一)(5)は争う。
同項(一)(6)の費用は不知。
同項(一)(7)の損害填補の事実についての自白を援用する。
4 同第3項(二)(1)の事実中、原告佐藤サヨコが同項(イ)記載のとおり通院し、同項(ロ)記載の病院に昭和四八年九月三日から同年一一月三〇日まで入院したことは認めるが、その余の入通院の経緯は不知。治療費は不知。
同項(二)(2)の事実は不知。
同項(二)(3)は争う。
同項(二)(4)の損害填補についての自白を援用する。
三 抗弁
1 本件事故は、前記のとおり、被告と訴外会社(訴外佐々木多喜男)の共同不法行為によつて発生したものである。
原告らは訴外会社に対してその蒙つた人的損害につき同会社が負担すべき損害賠償債務を全額免除する旨の意思表示をしている。
訴外会社の本件事故による損害賠償債務の負担部分は少くとも五割を下らないから、被告も亦右訴外会社が債務免除された負担部分について免責されるべきである。
2 仮に、共同不法行為者間の損害賠償債務が不真正連帯債務であるとしても、原告らは訴外会社の負担部分については被告に対する関係においても絶対的に免除する趣旨であつた。
従つて、訴外会社の負担部分については、被告は免責されるべきである。
3 被告は、請求原因第3項(一)(7)記載の損害填補のほかに、金一〇、〇〇〇円を原告佐藤徳次郎に支払い、また、工藤光男も金二〇、〇〇〇円を同原告に支払つている。
四 抗弁に対する認否
抗弁第1項の事実中、原告らの免除の意思表示の事実を否認する。
仮に右免除の事実が認められたとしても、それは相対的効力を有するに止まり、被告の賠償責任に影響を及ぼすものではない。
第三証拠〔略〕
理由
一 被告の責任原因
1 請求原因第1項記載の日時、場所において、被告の被用者である訴外工藤光男が運転する被告の保有に係る小型貨物自動車(被告車)が、原告佐藤徳次郎の運転する小型三輪貨物自動車(原告車)に追突したこと、原告らが右日時、場所において発生した交通事故により請求原因第1項記載のとおりの傷害を受けたこと、以上の事実については当事者間に争いがない。
2 被告は、被告車の右追突事故と原告らの右傷害の結果およびこれによる損害との間の相当因果関係を争うので、この点について検討する。
成立に争いがない乙第六ないし第一二号証、証人工藤光男の証言および原告佐藤徳次郎、同佐藤サヨコの各本人尋問の結果を総合すると、次の事実が認められる。
すなわち、工藤光男は前記日時頃被告車を運転して、時速約五〇キロメートルの速度で前記本件事故現場付近にさしかかつた際、進路前方の進路左端に普通貨物自動車が駐車していたため前方の見通しが妨げられる状態であつたので、このような場合同自動車の右側を通過するに当つては、その前方の安全を十分確認して進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、漫然と同一速度で右自動車の右側を通過しようとした過失により、右自動車右側を通過し始めた時前方約一四メートルの地点に原告車が渋滞のため停止しているのを発見して直ちに急制動、右転把の措置をとつたが及ばず、被告車の前部左側を原告車後部に衝突させた(第一次追突)。その直後、被告車の後方約一〇メートルの間隔で追従していた訴外会社所有の大型貨物自動車を運転する訴外佐々木多喜男が、右駐車車両の前方の安全を確認することなく漫然と被告車に追従して進行した過失により、被告車の急停止に即応し得ず、自車前部を被告車後部に衝突させ、その衝撃により被告車をして更に原告車に衝突させた(第二次追突)。原告佐藤サヨコは、原告車の助手席に同乗していたが、第一次追突の衝撃により座席からころげ落ち、立ち上る瞬間に第二次追突があつたため、その衝撃により前頭部を原告車のフロントガラスに打ちつけた。
以上の事実が認められ、右認定を左右しうる証拠はない。
以上の事実によれば、原告らの傷害が第一次追突および第二次追突のいずれか一方によるものであるとは断定し難く、むしろこれらが競合してその原因となつたものと推認すべきである。そして、前記認定のとおりの本件事故発生の状況に照らすと、工藤光男が前記道路左端に駐車中の普通貨物自動車の右側を通過するに当つて予めその前方の安全に注意を払い、減速していたならば、原告車に対する第二次追突も亦回避され得たことが明らかであり、また、工藤光夫は右駐車中の普通貨物自動車の右側を通過開始直後に急停止の措置を講じた場合、約一〇メートル後方から追従する佐々木多喜男運転の大型貨物自動車と追突事故の発生の危険が生ずることも予想しうる状況にあつたと認められるのであるから、このような事情の下においては、第二次追突につき、佐々木多喜男の前記過失が介在しているけれども、工藤光男の前記過失との間にも相当因果関係があるものというべきである。
3 以上によれば、原告らの前記傷害と工藤光男の前記過失との間には相当因果関係があり、被告は自動車損害賠償保障法三条により本件事故による原告らの損害を賠償すべき責任がある。
二 損害額
1 原告佐藤徳次郎分
(一) 治療費(金五一三、一二八円)
原告佐藤徳次郎が本件事故による傷害の治療のため昭和四八年八月三一日から同年九月一日までときわ木病院に通院し、同年九月三日から同年一一月三〇日まで細井外科医院に入院したことについては当事者間に争いがなく、成立に争いがない甲第五号証、第六号証の一ないし五、第七号証の一ないし四、原告佐藤徳次郎本人尋問の結果により真正に成立したものと認めうる甲第八号証、原告佐藤徳次郎本人尋問の結果によれば、原告佐藤徳次郎は右争いない事実のほか同年一二月一日から同年一二月一三日まで細井外科医院に入院し、更に、同年一二月一四日から昭和四九年四月九日まで同病院に通院し、また、昭和四八年一一月二九日頃までに合計八回にわたつて蓬来山精神会本部土橋治療院においてマツサージ治療を受け、以上の治療に要した費用は、ときわ木病院分金七、六九〇円、細井外科医院入院分金三六六、八五五円、同病院通院分金一三〇、〇八三円、マツサージ費金八、五〇〇円、合計金五一三、一二八円であると認められる。
(二) 入院雑費(金三〇、六〇〇円)
原告佐藤徳次郎は、前記のとおり細井外科医院に一〇二日間入院したが、その間に要した入院雑費は一日金三〇〇円の割合で計算した同原告主張の金三〇、六〇〇円を下らないものと認められる。
(三) 休業損害(金一、四四〇、二九五円)
原告佐藤徳次郎および同佐藤サヨコ各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、原告らは本件事故当時夫婦共働きで塗装業を営み、原告佐藤サヨコは補助者として働いていたが、原告佐藤徳次郎は本件事故による傷害の治療のために、原告佐藤サヨコと共に本件事故発生の昭和四八年八月三一日から昭和四九年三月二一日まで一九四日間休業を余儀なくされたことが認められる。
成立に争いがない甲第九号証、原告佐藤徳次郎本人尋問の結果により真正に成立したものと認めうる甲第一〇号証、第一七号証の一ないし一七、第一八号証の一ないし一一、原告佐藤徳次郎および同佐藤サヨコ各本人尋問の結果を総合すると、原告佐藤徳次郎は、富士塗装看板工業こと松田隆至の下請をして、昭和四八年六月から同年八月末までの間六九日稼働し、材料は現物支給を受けたうえ、報酬として合計金四八五、五〇〇円の支払を受け、また、右松田隆至以外の数ケ所から塗装工事の注文を受けて同年六月から同年八月末までの間に合計金七三五、五一〇円の工事代金を得たが、そのうち材料代等の諸経費が三分の一程度を占めるので、純益は金四九〇、三四〇円となること、また、原告らの塗装業は地域の環境的条件により冬期間は屋外作業ができず、屋内作業に限られるため、夏期に比べると収入が減少する傾向があること、以上の事実が認められる。(なお、調査嘱託の結果における所得額は、右事実に照らし信頼性が乏しい。)
以上の事実によれば、原告佐藤徳次郎が昭和四八年六月から同年八月末までに得た収入は、合計金九七五、八四〇円であり、右期間中の一日平均の収入額は金一〇、六〇六円となる(975,840(円)÷92(日)≒10,606(円))。原告らが本件事故による傷害により休業することなく稼働して右同様の収益を上げることができたとすれば、原告佐藤徳次郎は前記のとおり昭和四八年八月三一日から昭和四九年三月二一日まで一九四日間の休業期間中に金二、〇五七、五六四円(10,606(円)×194(日)=2,057,564(円))の収益を上げ得たことになるが、前記のとおりの冬期間中の収入減を考慮すべきであるから、右金額の三割を控除した金一、四四〇、二九五円をもつて右休業期間中に原告佐藤徳次郎が逸失した収益であるとするのが相当である。
従つて、原告佐藤徳次郎の休業損害は金一、四四〇、二九五円とするのが相当である。
(四) 原告佐藤サヨコの就労不能による損害(金二、二九四、〇四〇円)
成立に争いがない甲第一二号証の四、原告佐藤徳次郎および同佐藤サヨコ各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、原告佐藤サヨコは大正一四年一〇月二一日生れで、本件事故以前は夫である原告佐藤徳次郎の営む塗装業の補助的作業に従事していたが、本件事故による外傷性頸部症候群の後遺障害として、頸部、両肩の疼痛、左上肢の疼痛、しびれ感、頭痛、頭重感等の症状があり、その回復は困難であり、右塗装業の補助的作業に就労することも不可能であること、そのため、原告佐藤徳次郎はその営業を維持するため代替作業員一名の雇入れを余儀なくされ、一ケ月平均二〇日間稼働して一日当り少なくとも金三、五〇〇円をその賃金として支払つていること、以上の事実が認められる。
以上の事実によれば、原告佐藤サヨコは本件事故がなければ、その稼働可能年数の範囲内で原告ら主張のとおり少なくとも引続き三年間は前記補助的作業に従事することができたものと推認することができ、従つて、右三年間の原告佐藤サヨコの就労不能により原告佐藤徳次郎が出費を余儀なくされた代替作業員に対する賃金は、同原告が本件事故により蒙つた損害であるということができる。そして、右損害額を、一ケ月平均稼働日数を二〇日間として、ホフマン式により中間利息を控除して計算すると、金二、二九四、〇四〇円となる。
3,500(円)×20(日)×12×2.7310=2,294,040(円)
(五) 慰藉料(金六〇〇、〇〇〇円)
原告佐報徳次郎が本件事故による傷害のために前記のとおりの入院、通院治療を要したこと、その間休業を余儀なくされ生活にも多大の不安が生じたこと、本件事故の態様その他諸般の事情を考慮すると、同原告の受けた精神的苦痛に対する慰藉料としては同原告主張の金六〇〇、〇〇〇円が相当である。
(六) 損害の填補
以上のとおり、原告佐藤徳次郎の損害は合計金四、八七八、〇六三円となるが、同人が自賠責保険金五〇〇、〇〇〇円を受領し、被告から金二一〇、〇〇〇円の内入弁済を受けたことは当事者間に争いがなく、また、成立に争いがない乙第一ないし第三号証によれば、同原告は右のほかに被告から金一〇、〇〇〇円、工藤光男から金二〇、〇〇〇円の弁済を受けていることが認められるので、以上合計金七四〇、〇〇〇円を前記損害額から控除すると残額は金四、一三八、〇六三円となる。
(七) 弁護士費用(金四〇〇、〇〇〇円)
以上のとおり、原告佐藤徳次郎が被告に請求しうる損害額は金四、一三八、〇六三円であるところ、弁論の全趣旨によれば、被告が任意の弁済に応じないため本件訴提起を余儀なくされ、その訴訟遂行のため弁護士である本件訴訟代理人に訴訟委任していることが明らかであり、本件事案の内容、前記請求認容額等の諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある損害額としては金四〇〇、〇〇〇円が相当である。
2 原告佐藤サヨコ分
(一) 治療費(金五二〇、三四七円)
原告佐藤サヨコが本件事故による傷害の治療のため昭和四八年八月三一日から同年九月一日までときわ木病院に通院し、同年九月三日から同年一一月三〇日まで細井外科医院に入院したことについては当事者間に争いがなく、成立に争いがない甲第一二号証の四、第一三号証、第一四号証の一ないし五、第一五号証の一ないし三、第一六号証、前掲甲第八号証、原告佐藤サヨコおよび同佐藤徳次郎各本人尋問の結果によれば、原告佐藤サヨコは右争いない事実のほか同年一二月一日から同年一二月一三日まで細井外科医院に入院し、同年一二月四日から昭和四九年四月二四日まで同病院に通院し、また、昭和四八年一一月二九日までに合計八回にわたつて蓬来山精神会本部土橋治療院においてマツサージ治療を受け、以上の治療に要した費用は、ときわ木病院分金八、四〇〇円、細井外科医院入院分金三五八、九二〇円、同病院通院分金一四四、五二七円、マツサージ費金八、五〇〇円、合計金五二〇、三四七円であると認められる。
(二) 入院雑費(金三〇、六〇〇円)
原告佐藤サヨコは、前記のとおり細井外科医院に一〇二日間入院したが、その間に要した入院雑費は一日金三〇〇円の割合で計算した同原告主張の金三〇、六〇〇円を下らないものと認められる。
(三) 慰藉料(金八〇〇、〇〇〇円)
原告佐藤サヨコは、本件事故による傷害のために前記のとおりの入院、通院治療を要したうえ、なお前記のとおりの回復困難な後遺障害に悩まされていること、本件事故の態様その他諸般の事情を考慮すると、同原告の受けた精神的苦痛に対する慰藉料としては金八〇〇、〇〇〇円が相当である。
(四) 損害の填補
以上のとおり、原告佐藤サヨコの損害は合計金一、三五〇、九四七円となるが、同人は自賠責保険金五〇〇、〇〇〇円および後遺障害分として同保険金一八五、〇〇〇円合計金六八五、〇〇〇円を受領したことについては当事者間に争いがないので、これを右損害額から控除すると、残額は金六六五、九四七円となる。
三 被告の免除の抗弁について
被告は、原告らが本件事故の共同不法行為者である訴外会社に対し、同会社の負担部分五割についてその債務を免除する旨の意思表示をしたので、右負担部分については被告も免責されるべきである旨主張するので、この点につき検討する。
成立に争いがない乙第一三号証、証人阿部留蔵の証言によれば、本件事故後間もなくして原告佐藤徳次郎、工藤光男、および佐々木多喜男の三者間で、同原告の自動車に生じた損害につき工藤光男および佐々木多喜男が二分の一ずつ負担して賠償する旨の示談が成立し、これに基づいて訴外会社が右佐々木多喜男の負担分を同原告に弁済した際に、原告らは訴外会社に対し、同会社には右物損の他は一切本件損害の賠償を請求しない旨の債務免除の意思表示をしたことが認められる。
しかしながら、損害賠償請求権者が共同不法行為者の一方に対してのみその債務の免除の意思表示をした場合において、当該不法行為者の負担部分が他の共同不法行為者の負担部分より著しく大きいことが明らかであり、右一方の共同不法行為者に対する免除に絶対的効力を認めることにより他の共同不法行為者も亦免責される結果となつても債権者に不測の損害を蒙らせるおそれがないような特段の事情が存する場合を除き、原則として、共同不法行為者は不真正連帯債務の関係に立ち、その一方に対する債務免除は相対的効力を有するにすぎず、他の共同不法者に影響を及ぼさないものと解するのが、当事者の意思に合致し、また、不法行為の被害者救済の観点からも相当である。そして、前示認定事実に照らし、訴外会社の負担部分が明らかに被告の負担部分よりも著しく大きいとは認め難い本件においては(なお、証人阿部留蔵の証言からは、原告らは訴外会社に対し前記免除の意思表示をした当時、被告の負担割合の方が大きいと考えていた形跡が窺われる)、原告らの訴外会社に対する前記免除の意思表示が絶対的効力を有すると解することはできない。
また、原告らが右免除の意思表示をするに当つて、訴外会社の負担部分については被告に対する関係においても免除する趣旨の意思表示をしたことを認めるに足りる証拠はない。
従つて、被告の前記抗弁は失当である。
四 結論
以上のとおりであるから、原告らの本訴請求は、被告に対し、原告佐藤徳次郎分として金四、五三八、〇六三円、原告佐藤サヨコ分として金六六五、九四七円および右各金員に対する本件訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和四九年五月一一日以降各完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当として認容し、その余の請求は失当として棄却することとし、民事訴訟法八九条、九二条、一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 多田元)